酢豚ちゃん
強制女装的な話とか。
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「……?」
胸の辺りがやけに重い。気になったので、寝ぼけ眼のまま下を見た。あれ? 山が二つと谷間が見える。試しに触ってみるとプニプニとした弾力があった。
触られている感覚もあるから、この物体は俺の持ち物……ということか。暫く思考が追いつかない。はは……まさか、ね。きっと……まだ夢を見てるんだ、俺。
そう思いながら、昨日から着たままだった服を着替えようと脱いだ。
「なんじゃ、こりゃああぁっ!」
一気に眼が覚めた。ついでに叫んだ、思いっ切り。紛うこと無き女の乳房が自分の胸に付いているんだから当たり前だ。でも、それだけじゃない。
「……嘘ぉ」
思わず声を落とす。ボーイソプラノくらいだろうか、明らかに声が高くなっている。違和感は股間にもあった。いつもならそこにある感触が無い。嫌な予感がして、恐る恐るズボンの上から手を入れる。そして、ブリーフの中へ。
「無いぃ……」
判っていたが、確かめられずにはいられなかった。実際に脱いで視認する。やっぱり無かった。代わり……と言ってはなんだが、縦の筋に見える亀裂が一本、茂みの中に入っていた。
「なんでぇ……?」
答えるもののいない部屋で一人泣きそうな俺の呟きへ、意外にも答えが返ってきた。
「何でって、その方が気分良いからさ。牡に口移しされても……ねぇ」
辺りをキョロキョロと見回す。俺の他には誰もいない。強いて言えば、猫が部屋の中にいるだけだ。
「何だ、空耳かぁ」
俺は溜息を吐いた。きっと彼女に振られた所為で、オカシクなってるんだな。若しくは疲れて幻覚を見聞きしてるんだろう。そうだ、そうに違いない。じゃなけりゃ、こんなこと現実にある訳がないじゃないか。
「ふぅむ……眼福、眼福。朝からこんな絶景を眺められるなんて、余は幸せ者だな」
せっかく現実逃避して、精神の安定を保とうとした俺の目論見は脆くも崩れ去る。
「ね、ね、ね……猫が……しゃ、喋った……」
――本文より一部抜粋――
彼女に振られた俺はバレンタインデーになった直後、偶然にも猫を拾う。それが非日常の始まりだった。朝、目が覚めたら女になってるし、猫は喋るし。信じられないことが一杯ありすぎて気を失ったら、まさか、こんなことになるなんて……。
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