酢豚ちゃん
強制女装的な話とか。
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小さい頃からその兆候はあった。長くなるけど昔話からしたい。
物心ついた頃、よく覚えていないけどきっと多分その頃から女の子になりたい、可愛くなりたいと思っていた。
背の順に並ばされると必ずクラスで一番前になる背格好や小学校に入って少し経つくらいまでよく女の子にも間違えられた容姿もそれなりに影響していたのかもしれない。
幼稚園に入る前あたりの自分の写真を見ると全部首をかしげてニコニコして映っている。そのポーズをとると可愛く見えると思っていたから例外なくそうしていた。
両親はそういう行動を取る息子のことをさして気にはしてなかったようだ。「男の子なんだからしっかりしなさい」と言われるようなこともなかった。
しかし幼稚園に入ってから、どうやら男の子はそういうことをしては変に思われるのだということに気がついた。
でもぼくは最初はあまり気にしてなかった。18cmのお気に入りだった赤い靴を履いてたらなぜか色々言われたりもしたけど、そこまで気にすることは無かった。
その当時ぼくは男の子にしては少し長めの髪型にしていたのだが、ある日幼稚園の同学年の男の子がぼくの髪をハサミで切り落とした事件が起きた。
その時は悲しくて泣いてしまったけれど、その時に男の子が可愛くなりたいと思うのはダメなことなんだなとようやく理解した。
それ以来、ぼくは表向きには一切そういうことは考えないように、そして他の男の子達が好むものを好きだというようになった。
好きな色は赤より青を、好きなテレビ番組はカクレンジャーを推すようになった。
ちょうどその頃から好きなものが何なのかよくわからなくなってきた。いろいろどうでもよくなった。
そしてぼくも遅ればせながら中学校に入っていわゆる第2次性徴の時期を迎えた。そして好きな子ができた。相手は女の子だった。背が高くてちょっと同学年の中では少しませてて、ぼくの仲のよかった女の子だった。その時もしかしたら自分のことを同性愛者なのではないかと思っていたぼくは、差別的な言い方になってしまうけど正直少しホッとした。
かと言って、じゃあ告白するかとなるとそれほどでもなかった。一緒によく遊んだけれど。
付き合わなかった理由は、はっきりとしない。でもなんとなくその時にぼくは彼女の彼氏には似合わないなと思ったのは記憶にある。
他の男の子ならもしかしたらそこで釣り合うようになるべく格好良くなろうと努力するのかもしれない。
でもぼくはそれをする気が起こらなかった。格好よくなろうという気にならなかったのだ。
しばらくして彼女は他のイケメンの男の子と付き合うようになった。ああ、これはお似合いだなと他人事のように思った。
お察しの通り、その頃になっても相変わらずぼくの身長体重はクラスの一番前に並ばされるくらいの低空飛行を続けていた。
確か中学入学時は140cm37kgだったし、卒業するときも160cmまでしか大きくならなかった。
でもその頃のぼくは一気に身長が伸びてガタイがよくなっていく周りの男の子たちを見ながら、この低空飛行状態を望ましく思っていた。もしあんなにガタイがよくなってしまったら、可愛くなくなってしまう、それだけは避けたいと誰にも言わなかったけど内心はそう思っていた。
容姿ももちろんもう女の子に間違われるようなことはなかったけど、あまりゴツゴツしておらず中性的な顔を保っていた。
元から高かった声も少し声変わりした(と小学校の時から仲のよかった女の子には言われたけれど、一般的に言われるような声が出しづらくなるとかそういう明らかにわかる変声期というのはぼくにはやって来なかった)けど甲高いままだった。顔を上に向けるとなんとなく喉仏らしきものが見えるかなという程度で、喉仏が目立つということもなかった。足も23.5cmでそこまで大きくならなかった。
遺伝的要素に感謝する一方で、高校に入学してから一気に身長が伸びたいう母親の話を聞きながら、そのことを恐れる日々が続いた。
中学校に入学した時、ぼくは自分の部屋にネット回線を引き、パソコンを手に入れた。
そのうちぼくは夜更かしをして女装している人達のHPを観るようになった。可愛らしい人もそうでない人もいたけど、どの人も楽しそうにしているのが印象的だった。時々オフ会なんてものをやってて、友達もいるようでいいなと思っていた。当然ぼくにはそんな秘密を共有できる友達はいなかったから羨ましかった。
そして写真を見ているうちにこれはぼくのほうが絶対に可愛くなるとの確信をもった。単純に年齢の問題もあるけど、それを差し引いても。
そしてその日ぼくは初めて母親が若かった頃着ていた服を着た。やっぱりどうしようもなく古臭かったけれど、初めてのワクワク感で曇った目にはとても可愛らしく映った。そしてそのままぼくはオナニーをした。
そこからの転落は早かった。
中高とそんな生活を続けたぼくは、東京の大学に入学し一人暮らしを始めた。家族の目を気にする必要のない空間と恐ろしく持て余した時間と家庭教師のバイトで生活費とお小遣いを捻出しても少し余るくらいのお金を手に入れ、趣味に恐ろしく拍車がかかった。
ぼくはずっと欲しいと思っていたものをその時に一気に揃えた。
周りの女子大生が買っているような(安い)ブランドの洋服、バッグ、靴、メイク道具、ウィッグ…資金難になりながらも安いものを中心に通販で買い揃えていった。幸い高校生で急成長するという懸念はどこへやら、165cm52kgで成長は止まってしまい、足の大きさも24.5cmで止まってしまった。女性の体格としては大柄なほうではあるけれど、それでも普通のお店で手に入る大きさの服や靴を買えばよかったのでその面ではすごく助かった。
そしてある程度まとまった暇な時間が出来るたびに、ぼくは鏡の前に立って女の子になるようになった。
もちろん最初は鏡の前におてもやんが出来あがるだけだった。それも悲しくて、女性向けファッション誌を買って研究してみたり自分の顔に何度も塗りたくって練習するようになった。ちょっと痩せすぎててほっぺたに肉が無いなと思って笑顔を作る練習をしたり、ちょっとごはんを沢山食べるようにしてみたり、やれる範囲でいろいろやってみた。
そんなある日、奥二重の目をアイプチではっきりさせてやって黒髪のウィッグを被ってみたら、鏡の前に劣化版松井玲奈(ファンの方々申し訳ありません)が出来上がった。あ、凄く可愛い、と自分で思った。
その場ですぐにオフホワイトにブルーのボーダーが入ったワンピースにベルトをしめてカジュアルなバッグを持たせて帽子をかぶらせてみた。鏡の向こうの「玲奈ちゃん」はえ?って感じでちょっとポカンとしていたけれど、ちょっと顔が赤くて贔屓目だってわかっていてもとても可愛らしかった。
それから「玲奈ちゃん」はいろいろなことを経験した。ビクビクしながら外出もしたし、学校の大学祭でメイドさんになったりもした。酔っ払ってネットに少し画像を上げたりもした。知らない人に可愛いねと言われた。凄く嬉しかった。一人エッチもしたりした。「玲奈ちゃん」でいるとその間はニコニコしていられたし、幸せだった。
もう「玲奈ちゃん」とのお付き合いも5年くらいになる。ぼくも24歳になった。昔はある程度の年令になったら限界を迎えるだろうしその時には別れようと思っていたのだけれど、結局ズルズルと続いてしまって関係を持ってしまっている。むしろ、社会人になってお金に余裕が出てきた分、玲奈ちゃんも貧乏女子大生からそれなりな社会人さんって感じになってきて、これはこれで可愛いかななんて思ってる。なんというか、本当に業が深いなって自分でも思う。
結局今まで彼女を作ろうという気も起こらないまま、そして作ることもないままズルズルと来てしまった。いくら「玲奈ちゃん」が可愛くてもぼくの客観的なステータスは24歳男性・会社員であるということには変わりない。数年したら結婚したらどうかとかそういう話にもなるだろう。その時にはぼくは「玲奈ちゃん」に『ごめん、一緒にはいられない。別れよう。』って言わないといけないのだろうか。そうだよな言わないといけないんだよな。
その時に「玲奈ちゃん」はなんて言うだろうか。
「わかった、いいよ」って言ってくれるだろうか。「ずっと一緒じゃなきゃヤダ。一生玲奈になって。」って言うだろうか。
いつか言わないといけない時が来るというのはわかってはいるのだけれど、悲しくて向き合えなくてまだずっと言えてない。
追記
これ酢豚ちゃんに載せてほしい。
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